オバマとキングとホワイトハウス 2

 
 先日の記事、オバマとキングとホワイトハウスにて、アメリカ大統領選挙における、オバマ上院議員の名言を紹介させていただいた。
 

 http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20080203-00000008-gen-ent
 オバマ演説 ここがスゴイ!! (Yahoo!ニュース 2月3日 日刊ゲンダイ)より引用
 
 『リベラルのアメリカも保守のアメリカもなく、ただ“アメリカ合衆国”があるだけだ。黒人のアメリカも白人のアメリカもラテン人のアメリカもアジア人のアメリカもなく、ただ“アメリカ合衆国”があるだけだ』

 
 何度読んでも、シンプルかつインパクトがある。前回も触れたが、キング牧師の演説とオバマ氏の演説には共通点にプラスαがある。キング牧師は白と黒の差別を眼目にしているのに対し、オバマ氏はさらに『ラテン人・アジア人』を加えている。1963年のキング牧師の演説から45年たった今、『アメリカ合衆国』で生活・活躍するのは、白と黒の人々だけでなくなったといえよう。
 
 
 そこでまた引用したい英語文献がある・・・
 それはアメリカの憲法だ。
 
 きっかけは、海外ドラマ『ザ ホワイトハウスThe West Wing)』。
 シーズン1・第6話のメインテーマが国勢調査の方法論だった。
 その中でアメリカの「人口」をどう算出するか、といったやり取りがあった。
 メインキャストがここぞという時、アメリ憲法を引用する。
  

 http://www.law.cornell.edu/constitution/constitution.articlei.html#section2
 United States Constitution Article I. Section 2. より原文を引用 
 
 Representatives and direct taxes shall be apportioned among the several states which may be included within this union, according to their respective numbers, which shall be determined by adding to the whole number of free persons, including those bound to service for a term of years, and excluding Indians not taxed, three fifths of all other Persons.
 
 http://japan.usembassy.gov/j/amc/tamcj-071.html
 アメリカ合衆国憲法 第一条 第二節 より邦訳を引用  
 
 下院議員および直接税は、この連邦に加入する各州の人口に比例して、各州の間で配分される。各州の人口は、年期契約奉公人を含み課税されないインディアンを除外した自由人の総数に、自由人以外のすべての人数の五分の三を加えたものとする。

   
 後半に『各州の人口は・・・自由人以外のすべての人数の五分の三を加えたもの』とある。
 この自由人以外というのが、黒人の方々を示している訳である。そして彼らはアメリカ合衆国の人口に含まれない。ダイレクトにはカウントしないと憲法に明記されているのである。(実際は、引用文にあたる人口算出法は改正されているようだ。) 
 
 ヒラリー氏の支持層が白人に偏るのに対し、アフリカ系アメリカ人でもあるオバマ氏は黒人などの支持層が厚い。多くの人種から期待されていると考えてもいいだろう。ともあれ、アメリカですら未だに人種の違いという根強い壁がある。そこを上手く押さえているから、オバマ氏の言葉は多くの聴衆を惹きつける。多民族・多人種・多文化の交わるところでは、必ず衝突が発生するのは、今も昔も変わらないという事であろう。。。
  
  
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 さて、ここからちょっと私的な思い出に脱線する。
 
 視点をアメリカから世界へ広げてみよう。モザイク国家と言われる国々が多数あり、宗教や民族・人種、経済的な問題を抱えて、紛争状態にある国もある。ヨーロッパの先進国内でも、他国の労働者を排斥するといった経済がらみの問題もクローズアップされている。おそらく近い将来、大なり小なり同じような問題が日本にも上陸するだろう。
 
 私は学生時代、中国・韓国・カンボジア・タイ・インド・アメリカ・ドイツの留学生に出会った。彼らのレポートや論文の、日本語をチェックしてくれと頼まれたのがきっかけだった。幸いな事に彼らはみな流暢な日本語を話してくれるので、コミュニケーションは楽だった(笑)。各国何人かの友人が出来たのだが、いわゆるお国柄とか随分個性的と感じた人もいて、ちょっと気遣いすることもあった。そんな私を見て、『典型的な日本人』のイメージに合ってるよと言われた事がある(苦笑)。
 
 ところがそんな個性的な異邦人たちに、意外な事に共通するマイナス・フィーリングがあった。
 
 今後のグローバル社会で如何にして母国と各国を繋ぐか? 言葉の壁は何とかなる。しかし人種の壁・民族の壁・宗教の壁・歴史の壁は難しい。これらの根強い壁がある中で、自分はその壁を乗り越えられるだろうか、といった懸念である。アジア系の人などバリバリと自己主張を誇示するイメージが強いが、それ以外の一面も個々人で持っていた。今回のオバマ氏の演説などを振り返って、当時の彼らのアンニュイな顔を思い出したのだ。まぁ、学生時代でまだ若かったし、ホームシック的に漠然とした不安感を持っていたのかもしれない。日本で安穏と暮らしている私と違い、今頃彼らは世界を舞台に躍進してるのだろうと想像している。
 
 
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 そんなこんなで時は過ぎ、この日本にもグローバル化というものが大波で押し寄せた。特に中国市場の拡大で、翻弄されている企業もあるのではないか。企業という大きい枠組みでなく、その中で働く個人単位で考えよう。海外出張・赴任の際に、異文化交流によるカルチャーショックと確実な経済活動を両立することに、対処しきれている人がどれだけいるのだろうか。 
 
 最後に私にとってライフワークになる、メンタルヘルスの話題に発展しておきたい。
 ここに一つの判例を紹介する。

http://www.jil.go.jp/kokunai/mm/hanrei/20070525a.htm
海外出張中の自殺で労災認定=「業務原因でうつ病」−東京地裁 2007年05月25日
 
 土木建築サービス会社社員の川端英資さん=当時(56)=が 1999年、長期の海外出張中にうつ病にかかり自殺したのは、出張先での業務が原因として、妻教子さん(59)が、国を相手に労災認定を求めた訴訟の判決で、東京地裁は 24日、業務と自殺の因果関係を認め、八王子労働基準監督署長が出した遺族補償給付の不支給処分を取り消した。

 
 グローバル化というボーダーレスの時代、日本人サラリーマンの多くが海外出張・海外赴任をしている。タフなサラリーマンもいれば、ダウン気味の人もいるのではないだろうか・・・
 
 
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 大統領選挙の予備選であるスーパーチューズデーで決着はつかなかった。
 
 だが、人種のるつぼの大国で、今この瞬間にも、
 オバマ氏は聴衆を魅了をしているのだろう。

 語学やセンス、さらに身分まで武器にするオバマ氏。鎬を削るヒラリー議員やマケイン議員。
  
 
   如何に聞き手を惹きつけ、如何に主張を印象付けるか。
  
 
 海外・国内の人を問わず、彼らの姿から『技術』を奪うことも試して欲しい。