オバマとキングとホワイトハウス

 今さらながら、アメリカで盛り上がっている大統領候補指名レースに目を向けた。

 といっても、私はアメリカの新大統領が誰がいいとかと支持するつもりはないし、どちらの党が適しているだとか、アメリカの政治・経済その他もろもろの事情に詳しいわけではない。

 アメリカ人(欧米人?)というのは、非常に論理的であり討論が巧みである。今回ここに記録しようと思ったのは、言葉だけでも人を魅了する技術例として、自分なりにまとめておきたいと思ったからだ。もちろん、日本と違い教育カリキュラムの中でディスカッション(討論)などが組み込まれている背景もあるため、余計に日本人からみたら圧倒され、羨ましくも感じるだけなのかもしれない。

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20080203-00000008-gen-ent
オバマ演説 ここがスゴイ!! (Yahoo!ニュース 2月3日 日刊ゲンダイ)より引用
  
『リベラルのアメリカも保守のアメリカもなく、ただ“アメリカ合衆国”があるだけだ。黒人のアメリカも白人のアメリカもラテン人のアメリカもアジア人のアメリカもなく、ただ“アメリカ合衆国”があるだけだ』
 
原文=There’s not a liberal America and a conservative America−there’s the United States of America. There’s not a black America and white America and Latino America and Asian America;there’s the United States of America.
 


 これは民主党側で大統領候補指名レースをヒラリー・クリントン上院議員と争っている、バラク・オバマ上院議員の演説である。難しい単語は無く、センテンスも短い。何よりも『ただ“アメリカ合衆国”があるだけだ』という短文を繰り返している。


   今アメリカが抱えている問題は何か?
   政策・思想の違いが問題ででない。人種の違いが問題でもない。
   人種のるつぼである国だが、1つの国家であることには違いない。
   このたった1つの国家が、今抱えている問題は何なのか?


 この原文の前後を知らないので、上記の内容は私が受けた主観的メッセージである。なので、オバマ氏の主張からは外れているかもしれない。だが、日々のニュースで報道されている事から推測することはできる。アメリカ人の関心は既にイラク問題ではなくなった。サブプライム問題やワーキングプアなど、国民一人一人の関心が生活に密着する問題にスライドしていることを、オバマ氏などはクローズアップしている。

 “アメリカ合衆国”の抱える問題を聴衆一人一人の体内から湧き起こさせる、そんな力強さを上記の文言から感じた。この短い文章だけからでも、なるほど、ケネディーやキング牧師の再来と言われるのも納得できる・・・そう久々に画面越しに体感した。この短くも力強いフレーズが、何度もアメリカ国内のメディアで報道されれば、誰もが彼の魅力に傾倒しかかるのではないだろうか。


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 時に、私はニュースや海外ドラマを通して、アメリカ人独特の演説を耳にする。彼らの演説は人を引き付ける力強さがある。日本の政治家で言えば、おそらく田中角榮小泉純一郎といった人が、まぁ近いのだろう。インパクト・リーダーシップというと、戦後の日本を引っ張った吉田茂も話題性のある人物だった(何といっても、記者に水をぶっかけるシーンは忘れられないエピソードだ)。

 話が脱線しかかったので、アメリカ人独特の演説の巧みさに戻す。確かに教育や練習によって身に付けている技術でもあるだろう。だが、彼らは自己主張をメッセージに上手く乗せる。原稿を見ているよりも、聴衆一人一人に語りかける。そして1対多数の演説会場であるにもかかわらず、聞き手側は自分に訴えかけられていると強く感じてしまう。これが「日本人」に代表されるような「平凡な人間」に欠けている、彼らの強さであろう。

MAINSREAM 2 pp.100より引用 I Have a Dream (August 28. 1963)
 
・・・ I say to you today, my friends, so even though we face the difficulties of today and tomorrow, I still have a dream. It is a dream deeply rooted in the American Dream. I have a dream that one day this nation will rise up, live out the true meaning of its creed : "We hold these truths to be self-evident, that all men are created equal...." ・・・
 

 

 上記は私が高校時代に使っていた英語の教科書から、キング牧師の演説を引用させていただいた。教材として使うなら翻訳して日本語を掲載するのだが、教科書といえど翻訳権・翻案権が認められるか分からないので、原文のまま載せている。ただ、キング牧師のこの名演説も、平易な言葉を使っている。また『I have a dream』というキャッチフレーズを何度も使い、聴衆に共鳴を促しているのが特徴的だ。そして、同様のことがオバマ氏の演説にも言えるのである。

 なお、アメリカの時系列を押さえておく。この演説のちょうど100年前、1863年リンカーン大統領によって奴隷解放宣言がされている。しかしながら、キング牧師の時代に至っても白と黒の差別問題が根強かった。そして現代のアメリカも、やはり人種の壁はある。それが、今回のオバマ氏の演説内の『黒人のアメリカも白人のアメリカもラテン人のアメリカもアジア人のアメリカもなく』にも明確に指摘されている。


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 もう一つ引用したい英語文献がある・・・ 
 
 ここから先は、オバマとキングとホワイトハウス 2 にて話題をちょっと発展させたい。